– 日本が脱炭素技術提供 岸田首相、サウジ・UAEと合意 [2023/07/17更新]
岸田文雄首相は17日、アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビでムハンマド大統領と会談した。これに先立ち16日に首脳会談を開いたサウジアラビアと同様に、水素やアンモニアなどを活用した脱炭素技術の提供で合意した。中東に関与する中国を意識する。
サウジとUAEは石油依存の経済からの脱却をめざす。首相は今回の中東訪問で脱炭素の技術支援に焦点を当てる。
サウジのムハンマド皇太子との会談後、記者団に「産油国と消費国という関係から脱皮し、新たなグローバルパートナーシップへと進化させる」と強調した。
同国とは外相どうしの戦略対話の創設にも合意した。安全保障や経済など国際情勢について中長期的に話し合う。
日本の先端技術を用いて中東を新しいエネルギーの世界的な供給地とする方針を確かめた。サウジ側の提案で「ライトハウス・イニシアチブ」と呼ぶ戦略の立ち上げで一致した。
同戦略に沿った官民の共同事業を記した合意文書を17日に公表した。水素は日本の企業が製造や輸送を後押しする。燃やしても二酸化炭素(CO2)を排出しないアンモニアの共同生産に乗り出す。
製造時に発生したCO2を地下貯留・回収する「ブルーアンモニア」をめざす。日本が将来の需要や適正な価格の算定を助言する。
電気自動車(EV)用の電池などに不可欠なレアアース(希土類)の鉱山開発への共同投資も始める。日本が鉱山探査の知見を提示しサウジの初期調査を技術支援する。中国などに集中する供給源の分散につなげる。
気候変動対策の必要性は中東各国も共有する。サウジは2060年、UAEは50年にそれぞれ温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げる。欧州が推進する性急な再エネへの転換には警戒もある。日本は段階的な「移行」に重きを置く。5月の主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)の共同宣言は日本が主導するかたちで「国の状況を考慮して、多様かつ現実的な道筋を通じた移行を支援する」と明記した。中東やアジアの国々に配慮し米欧との橋渡し役となる戦略だ。
アンモニアは既存の火力発電所を利用できる。火力発電を一気に廃止しなくても段階的に脱炭素を進める技術として日本が開発をリードする。化石燃料の供給国である中東にとっても再エネに移行する時間を確保する利点がある。首相はUAEのムハンマド氏とも水素やアンモニアなどの製造に関する技術協力を議論した。産業の多角化で重要な医療や宇宙といった分野での提携も探る。
【中東諸国と取り巻く国々との関係相関図】
UAEは11月から開く第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)で議長国を務める。会議の成功へ気候変動に関する共同声明も出した。
日本が中東を重視する背景には、中東への中国の関わりがある。中国は3月にサウジとイランの7年ぶりの国交回復を仲介した。イスラエルとパレスチナの和平の仲立ちにも意欲を示す。
経済面でも存在感が増す。22年12月には習近平(シー・ジンピン)国家主席がサウジを訪れ、同国の成長戦略「ビジョン2030」に沿った投資を表明した。サウジのメディアによると、物流や医療、教育などの分野で、総額300億ドル(4兆1000億円程度)に上る。
中国とロシアなどによる地域協力組織「上海協力機構(SCO)」は7月4日、イランの正式加盟を承認した。イランも含め経済や安全保障の枠組みを広げる。
米国の中東での影響力低下も中国が近づく要因だ。米国はサウジの人権問題を問題視し、外交関係もぎくしゃくする。「シェール革命」で世界最大の産油国になり、エネルギー政策上の中東の重要度が下がった。
ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、日本の原油輸入は95%超を中東に頼る。中東とのパイプが細くなれば経済の安定を損ないかねない。
首相の周辺は「投資額では中国と競争にならない。いかに相手国の戦略に沿った支援を打ち出せるかにかかっている」と話す。(引用:日経デジタル)