– ボトル茶1本3万円、ドバイなど海外に販路見出す 静岡・茶農家の収益支える [2023/07/28更新]
大手IT(情報技術)企業出身者が立ち上げた新興企業Apoptosis(アポトーシス、東京・港)が、静岡県産茶葉を使った1本3万円の高級ボトリングティーを発売した。海外の飲食店に向けて高価格帯で売り出す一方、国内はアパレル店などを通じて販売しブランド力を高める。年々衰退が進む茶農家の収入を増やし、持続可能な収益構造の構築を狙う。
同社が手掛けるのは、世界農業遺産「静岡の茶草場農法」で育てられた茶葉などをボトリングティーやティーバッグにした「アポトーシス」シリーズだ。ボトル詰めしたお茶を高価格帯の製品としてブランド化することを狙う。
720ミリリットル入り3万円のボトリングティーは、主に欧米などの飲食店向けを想定している。同社を立ち上げた趙権益(ちょうけんえき)社長は「和食のみならず洋食にも合う。口直しにもぴったりで、コース料理の合間に飲むなどレストラン向けの需要は高いのではないか」と話す。(アラブ首長国連邦の)ドバイなどからも問い合わせが来ており、5年で3億〜5億円の売り上げを目指している。
一方、16個入りで2500円と手に取りやすい価格帯のティーバッグタイプや、8000円のボトリングティー(375ミリリットル)も販売し、国内でもブランドの定着を狙う。アパレル店などでも販売し「ノンアルコールで楽しめるライフスタイルの提案を通じて、ブランド価値を認知してもらいたい」(趙社長)。
アポトーシスは静岡県からの補助金に加え、クラウドファンディング(CF)サイト「Makuake(マクアケ)」での資金調達を経て2023年2月に販売を始めた。自社の電子商取引サイトも立ち上げ、ラインアップはボトリングティー11種類まで増やしている。
8月中旬には再びCFで資金を調達し、新たな個人向けの販路や、美術館でボトリングティーを飲みながら食事を楽しむ企画などにも手を広げる計画だ。趙社長は「お茶文化の衰退は飲む習慣が途絶えたことがきっかけ。新たな価値を提案することで、幅広い世代にボトリングティーを通じてお茶を楽しむ流れを作っていきたい」と意気込んでいる。
茶草場農法は秋冬期に茶園周辺のススキやササなどを刈り、刻んで茶畑に敷く農法で、13年に国連食糧農業機関(FAO)が世界農業遺産に認定した。深蒸し茶独特のうま味の強い味が特徴で、ワイングラスで飲むとより味わいや香りを楽しめる。温度によって味が変わるのも特徴で、常温で飲むとまろやかな口当たりに変わる。
趙社長は大手IT企業やスタートアップなどで、マーケティングや新規事業の開拓などに携わってきた。茶業界でスタートアップを設立したのは、茶農家の息子である友人から茶産業の現状を聞いたことがきっかけだった。
「国内市場は伸びておらず、収入が最盛期の半分以下になってしまっている茶農家もいる。『いいお茶だよね』と言われつつも、農家の生活は年々苦しくなっている」(茶業関係者)。
加えて近年は「(高級な茶葉は)急須で入れる文化が薄れてきた影響もあり『入れ方が分からない』と敬遠されることも多い」(同)と、消費の受け皿を探すのに苦労している農家も多い。趙社長は茶産業の収益構造を好転させるため、茶の消費量が伸びており、高価格帯の製品が受け入れやすい海外に目を向けた。
同社を運営するメンバーは12人で、全員がフリーランスだ。それぞれが得意な技術やノウハウを提供し合う。狙いを趙社長は「新型コロナ禍でウェブ上でつながりながら働く流れができたことも大きい」と話している。(引用:日経デジタル)