– 特集◆UAE法人税、フリーゾーンも税務申告 [2023/06/17更新]

アラブ首長国連邦(UAE)が6月1日から法人税を導入した。税制度を国際標準に高め、収入源を多様化する狙いだ。経済都市ドバイを中心に同国に中東事業の統括拠点を置く企業は多い。すでに拠点を置く企業や新たに進出する企業はどのような点に注意すべきなのか。

正確な決算書の作成必要

新たに導入される法人税の内容は、UAE全土に適用される法人税で、6月1日以降に始まる会計年度に適用される。日系企業の多くは12月期や3月期決算なので、12月期決算の場合は2024年1月1日から、3月期決算では24年4月1日からの会計年度が課税対象として適用される。

日本企業も多く進出する自由貿易地区(フリーゾーン)に立地する企業は課税対象の事業者だが税率が0%という扱いで、課税されないから何もしなくてもいいというわけではない。課税対象企業と同様に税務登録と税務申告は必要で、決算書の作成も求められる。

そこで鍵となるのが、決算書を正しく作れるかどうかだ。今までも事業の許可を更新するために決算書は必要だったが、法人税の申告に耐えうる内容だったかどうかは別の問題だ。例えば費用が法人税法上すべて費用となるかならないかや、収入も課税対象かどうかの分類ができないと正しく計算できない。
固定資産の減価償却の基準も、これまでは正しく計算されていたかどうかをそこまで厳しく指摘されることはなかった。今後は公正な会計基準に基づいて計算しなければならなくなり、間違えられない。固定資産の台帳があるのかとか、費用や売り上げの計上のタイミングなども重要になる。

<導入にあたって検討しておかなければならないこと>
実務的にやるべきことはたくさんある。法人税が導入されれば移転価格税制も導入され、日本の親会社などとの関連会社間の取引を適正な価格で実施しなければいけない。関連会社の取引価格が妥当かどうかというチェックが必要だ。文書化も求められフリーゾーン企業でも適用されるので、あらかじめ検討しておかなければならない。

税率9%、今後は引き上げか
税率9%は世界的に見ても低いと言える。UAEも入っている湾岸協力会議(GCC)諸国で、現時点で最も税率が低いのはカタールの10%だ。UAEの9%という数字は中途半端に見えるが、カタールの税率を意識していると考えられる。
サウジの法人税率は20%で、外国人株主にだけ課せられる仕組みだ。税率以外にも進出先の国が他国とどれだけ租税条約を結んでいるかという点も重要になってくる。

UAEの法人税制では配当は引き続き非課税となる予定で、同国に地域統括拠点を作るメリットは他国に比べてあると言える。フリーゾーン企業への課税が引き続き0%という点はあるが、移転価格税制に関するルールなどを見れば世界的に多く受け入れられる税制度になっていると言え、その点は評価できる。

UAEの法人税制度の今後の見通しとしては、21年に世界で最低法人税率を15%とするという合意がなされ、UAEもこれに加わった。現在各国が法整備を進めている。現在は日系企業がUAEのフリーゾーンで税率0%の措置を受けられているが、今後はフリーゾーン企業に対しても大規模な多国籍企業には15%の税率が適用される可能性が出てきた。

脱石油戦略とも密接に
アラブ首長国連邦(UAE)による法人税導入は、産油国が進めている石油収入に依存する経済体質からの脱却とも密接に関わる。サウジアラビアやUAEなど中東の産油国は収入の多くを石油やガスといったエネルギーの輸出で得てきた。
しかし、世界的な脱炭素化の流れが強まるなかで、石油や天然ガスなどの化石燃料の需要は徐々に減少していく見通しだ。
産油国は製造業の誘致や金融機能の拡充など産業多様化で収入源を増やす取り組みを急いでおり、UAEの法人税の導入はその一環だ。
世界では最低法人税率を決めて、税率の引き下げ競争に歯止めをかける流れが強まる。税制面での差別化が難しくなるなか、産油国が企業に対してどのような利点を打ち出せるかも注目される。

(引用:日経デジタル)

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